火垂るの墓

読み終えたあとで、もっと早くに読めばよかったと思う本や、観終わった後に、もっと早くに観ればよかったと思う映画があります。それから、今このタイミングで手にして良かったと感じる作品もあります。

野坂昭如さん原作の「火垂るの墓」は、小説・映画ともに、もっと早くに読めば良かったと思い、また、今このタイミングで読んで良かったと思える作品でした。


私はブックガイドを読むのが好きで、特に読みたい本がない時や、何か軽いものでも読みたいと思った時にブックガイドを開き、面白そうな本はないかとページをめくっています。

ある週末の夜、妻と3歳の娘が寝静まった後で、一人ビールを呑みながら、ブックガイドの『中学生に読んでほしい30冊 2024 (新潮文庫) 』を読んでいました。

そのブックガイドの中に、野坂昭如「アメリカひじき・火垂るの墓」が載っていました。あらすじの紹介文、「その缶を駅員が暗がりに投げると、栄養失調で死んだ四歳の妹、節子の白い骨がころげー」と書かれた文章を読んだだけで本当に泣きそうになって、なにか気持ちに大きな大きな重しが乗っかかってしまいました。酒が入っていたことと、なによりも四歳の妹、「節子」が、自分の3歳の娘と重なってしまったのが原因です。

それから、居ても立っても居られなくなり、すぐに小説「アメリカひじき・火垂るの墓」Kindle版を手に入れ、ちびちび呑みながら、その夜に半分ほど「火垂るの墓」を読みました。そして翌日に残りの半分を読み終えると映画も観たくなってしまい、すぐにネットでDVDを購入。3日後に届いたDVDを、届いたその日の夜に妻と娘が寝た後で一人で観ると、さらに追い打ちをかけるように心が大きく揺さぶられてしまいました。

『アメリカひじき・火垂るの墓』
(新潮文庫) Kindle版

著者:野坂昭如

発行:2009年(1968年初版発行)

発行所:株式会社新潮社

アニメ『火垂るの墓』

監督:高畑 勲

原作:野坂昭如

制作:スタジオジブリ

公開:1988年

上映時間:88分

小説を読み、映画を観終えた後で、なぜ今までこの作品を手に取らなかったのか考えました。そして考えたけれど、これといったことも思いつかなかったので、元々たいした理由もなかったのだと思いました。強いて言えば映画が公開当時の1988年、私は18歳の生意気盛りだったので、「どうせ子供を使ったお涙ちょうだいの映画だろう」ぐらいにしか考えず、観なかったのかもしれません。また当時は、本もほとんど読まなかったので、小説を手にすることもありませんでした。

もし18歳の頃に映画を観ていても、今日のように心に響かなかったかもしれません。それを考えると、子供ができて、歳を重ねた今のタイミングで映画を観たことは本当に良かったと思いました。

ちなみに、小説を読んで映画を観た後に、すぐにまた小説を再読。ひとつひとつの出来事を再確認するように読みました。

再読したあと、なんとも言えない気持ちになりました。落ち込むでもなく、反省するのでなく、諦観のような少し力が抜けたような感じ。只々、登場人物の「清太」と「節子」が、心の中に重く残りました。

そして、いろいろな事がどうでもいいように思えてきました。「国防」だとか、「危機意識」だとか、「アイデンティティー」だとか、「国家の歴史」だとか、「自民党惨敗」だとか、「プーチン」だとか、「トランプ次期大統領」だとか、「自由主義」だとか、「映画を観るまえに見た、この映画をいろいろ解説したYouTubeの動画」だとか。

私はもともと平和主義者です。なんだったら、軍備など全く持たなくてもいいと思うぐらいの考えです。しかし、その考えは「平和の理念」といったものから来ているものではなく、どちらかと言えば。経済合理性から来ているものです。

何兆円と言われる「防衛費」が年金や福祉や減税などに回れば、今よりもっと楽しく暮らせるのではないか、といったものです。(平和ボケの軽い考え方だと言われそうですが。)

しかし「火垂るの墓」を観たあとに、やはり「平和の理念」は一番大事だと思い、戦争の被害者はいつも弱者なのだと、痛切に感じました。


作者の野坂昭如さんは、テレビ番組「ビートたけしのTVタックル」や「朝まで生テレビ!」などに出演してたのを観ていたので、知っているつもりでした。しかし、よく考えてみると、テレビで見るそのような姿しか知らなかった、と言った方が正確です。

「火垂るの墓」を読み終えた後、他にも野坂さんの著作が読みたくなったので、文庫本の『「終戦日記」を読む』を購入しました。

新編『「終戦日記」を読む』

著者:野坂昭如

発行:2020年

発行所:中央公論新社

「終戦日記を読む」は、大佛次郎、高見順、永井荷風などの日記を紹介しながら、野坂昭如さん本人の終戦当時の体験を語っています。

収録エッセイの「プレイボーイの子守唄」などや、本書の文章の端々から浮かんでくるのは、まさに「火垂るの墓」の世界。実際に終戦時に幼い妹を亡くした体験談を赤裸々に語っています。

「火垂るの墓」が私に深く刺さったのは、「節子」と私の娘が重なってしまっただけでなく、野坂さんの体験からくる作品のリアルさにも影響があるのかも知れないと考えました。

そして、テレビに出演して大島渚監督と怒鳴り合って議論するような野坂さんの姿しか知らない自分の無知さを、少し恥ずかしく思えてきました。


#火垂るの墓 #野坂昭如 #戦争 #平和

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