ビリー・ミリガン 多重人格障害(その2)

NETFLIXでドキュメント「ビリー・ミリガン:24の人格を持つ男」が配信されています。現在では、主に「解離性同一性障害」と呼ばれるようになった多重人格障害。24人もの人格を持つ多重人格障害に悩まされた、ビリー・ミリガンの生い立ちから晩年まで、その詳細が多くの関係者によって語られています。


ドキュメント『ビリーミリガン:24の人格を持つ男』
全4話(1話約60分)  配信:NETFLIX

予告編はこちら(Youtube)


本作品は全4話、約4時間もの作品で、ビリーの母親、兄、妹などの家族。精神科医や心理学者、精神病院や施設の作業従事者などの医療関係者。弁護人、検事、元FBI捜査官、警察関係者、ジャーナリスト、近隣住民など多くの関係者にインタビューをしてビリーの実態に迫った、見ごたえのある内容になっています。またビリーへ聞き取りをしている実際の映像もあり、ビリーがいくつかの人格へ変わる様子を見ることができます。

作品そのものは、ビリー・ミリガンやその関係者に対して中立的な立場で制作されていると思います。


ビリーは幼少期に継父から受けた虐待により多重人格になったと考えられていて、精神科医のドクター・コーネリア・ウィルバーは多重人格になったのは「耐え難い状況への防御策」だとビリーが多重人格障害になった経緯を説明しています。

多重人格障害を持つビリーのことをよく思わない検察やマスコミ、政治家等もいて、その圧力で劣悪な環境のライマ病院へ送られる等、まともに治療を受けることが出来ていない状況も伝えています。

一方で、ビリーは反社会的な性格も持っていてマリファナなどを使用したり、マイケル・マッデン、ドワン・コックスの二人の失踪事件に深く関係していると見られるなど、ビリーの闇の部分も取り上げています。

マイケル・マッデン、ドワンコックスは、共にビリーの知り合いで、二人とも謎の失踪をしています。警察関係者は、ビリーが金銭目的で二人を殺害したと見ていましたが結局、遺体が見つからないために法的に起訴も出来ない状況だったと説明しています。ちなみに、ビリーの兄も妹もビリーが手をかけた可能性はあると発言しています。


映画監督のジェームズ・キャメロンは、90年代にビリーをモデルにした映画を作ろうと準備をしていましたが、権利問題によりこの企画は中止になりました。また2015年には、レオナルド・ディカプリオの制作・主演での映画化の話も報道されましたが現在まで実現はされていません。

このようにビリー・ミリガンはアメリカ社会を巻き込みながら色々な問題を起こしました。


本作品を通して観て驚いたのは、精神医療の関係者であっても「多重人格障害」の根強い否定派がいることです。専門家であっても肯定派・否定派に別れていて、しかもどちらも根強い考えを持っていて、否定派の方では「多重人格障害」そのものが嘘や詐欺や演技であり、そういうものは存在しないと発言する人物までいます。

否定派の主張のひとつが、70年代に「多重人格障害」と診断される人がアメリカでかなり増えましたが、その後90年代に入ってからは多重人格障害の診断はほとんど消えたことです。多重人格障害は一種の流行りで、本当の病なら簡単に消えるはずはないという見方を挙げています。

話は少しそれるかもしれませんが、精神科医の香山リカさんの著作に『「発達障害」と言いたがる人たち』という新書があります。2018年発行の新書で、加熱する「発達障害バブル」について書かれたものです。近年「自分や我が子が発達障害であるかもしれない」と考え、診断を希望する人が急増しているのだそうです。

あくまでも個人的な考えですが、70年代に「多重人格障害」と診断された人が増えた事と、現在の「発達障害バブル」と呼ばれるものは、基本的に似ているかもしれないと感じました。そして70年代に増えた多重人格障害が90年代に消えた事をもって、ビリー・ミリガンの多重人格障害は嘘だと決めつけるのには、少し無理があるかなと感じました。

本作品を観終わった感想は、個人的にはビリー・ミリガンの多重人格障害(解離性同一性障害)は真実なのではないかと思っていて、多重人格になったのは「耐え難い状況への防御策」であるとする説には説得力がありました。しかし専門外の私には知らないことも多いので確信とまでは言えません。

しかしこれだけは間違いないと思える事があります。それは、ビリーが幼少期に継父から虐待を受けたということです。母親も暴力を振るわれたと発言しており、兄妹や、近所に住む友人の証言もあることから、この事は間違いないでしょう。

前記事で取り上げた「ビリー・ミリガンと23の棺 下巻」のエピローグには、ビリーが著者のダニエル・キイスと共に、チャーマー・ミリガン(継父)の農場と虐待を受けた納屋を訪れた状況が綴られています。

納屋の中へ入ったビリーは、継父とビリーから被害(レイプ)を受けた3人の被害者女性に対しての思いを語ります。

「チャーマーは子供のころ虐待されたのかなって……どんな苦しみを経験したために、ぼくにあんな怒りや暴力を向けたのか理解しようとしてるんです」
 
「虐待されると虐待するようになるってことを知りました。[中略] ぼくがしたことで、彼女たちが一生苦しむことになるとわかっています。すごく申しわけないと思います。ぼくのせいで、彼女たちが小さな子供たちをいじめることになったら? どうか彼女たちが心のなかで許し、ぼくのように癒されますように」

「つまり、ぼくがまずチャーマーを許さなければならないってことです。」

ーダニエル キイス. ビリー・ミリガンと23の棺 下 (ダニエル・キイス文庫) (p.236-p.237). 早川書房. Kindle 版.から引用。


4時間にわたるドキュメント『ビリーミリガン:24の人格を持つ男』は、納屋で虐待を受けていたビリーの悲鳴を聞いた、近所の友人の「あの時、警察に通報しなかった事を悔やんでいる」という発言で締めくくっています。


『「発達障害」と言いたがる人たち』

著者:香山リカ
発行:2018年
出版社:SB新書

「発達障害」と言葉が広まるにつれ、自分は発達障害ではないかと診断を受ける人が急増しているのだそうです。そして、「あなたには何らかの発達上の問題があるとは思えません」と告げると、診断を受けたほとんどの女性が失望の表情を見せるとか。

自分がうまくいかないのは、自分のやる気や性格のせいではなくて、障害のせいと思いたがる。「発達障害バブル」という社会現象を取り上げ、その原因を考えた内容です。


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