前記事の続き、クリストファー・ノーランについて書かれた書籍と、ノーラン監督作品の紹介です。(映画に関しては人気作品ばかりなので、今さらな感じもしますが)
『クリストファー・ノーラン 時間と映像の奇術師』
著者:イアン・ネイサン 訳:阿部清美
発行:2023年
発行所:㈱フィルムアート社
長編デビュー作「フォロウィング」から最新作の「オッペンハイマー」までを扱った濃厚なノーラン解説書です。映画のワンシーンや撮影時の写真も多く掲載されています。著者のイアン・ネイサンは、「タランティーノ」や「ティム・バートン」などの評伝も扱ったことのある映画ライターです。
本書ではクリストファー・ノーランは多くのものに影響を受けてきたと解説しています。
影響を受けたものに、フリッツ・ラング、スタンリー・キューブリック、リドリー・スコット、スティーブン・スピルバーグ、マイケル・マン等の映画監督。
チャールズ・ディケンズ、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、レイモンド・チャンドラー、グレアム・スウィフト、カール・セーガン等の小説家。
そして「スターウォーズ」や「ブレードランナー」、「刑事グラハム/凍りついた欲望」、「ブルーベルベット」、「フルメタル・ジャケット」、「AKIRA」などの映画を挙げています。
著者のイアン・ネイサンは、「クリストファー・ノーランの映画は理解しようとするな、ただ感じるのだ」と、ブルース・リーが言いそうなセリフで本書を締めています。
ノーラン映画の配給会社は、3作目の「インソムニア」から11作目の「テネット」までワーナー・ブラザースが行っていましたが、最新作「オッペンハイマー」では、配給会社はユニバーサル・ピクチャーズとなりました。
本書によると、これは映画「テネット」を劇場公開とHBO Max(動画配信サービス)で同時配信させたために、ノーランがワーナー・ブラザースとの長年の関係を断ったためとしています。
これにより「オッペンハイマー」では、ユニバーサル、MGM、ソニー、パラマウントの配給会社と、アップル、Netflixの動画配信サービスを含めた6社による競争入札となり、「100日間の劇場公開期間」を提示したユニバーサルに、みごと軍配が上がりました。
クリストファー・ノーランは普段から、映画は映画館で大勢で観る観る方が楽しいと公言しており、自身の作品でも、IMAXカメラでの撮影やフィルムへのこだわりで知られるように、劇場での映画上映に強い情熱を持っている監督のようです。(実際にノーランの映画は、映画館で観るのが断然いい)
クリストファー・ノーラン 監督作品
『インセプション』
出演:レオナルド・ディカプリオ
渡辺謙
ジョセフ・ゴードン=レヴィット
マリオン・コティヤール
エリオット・ペイジ
トム・ハーディ
キリアン・マーフィー
マイケル・ケイン
上映時間:148分
公開:2010年
あらすじ
他人の夢の中に入り、エクストラクト(情報の抜き取り)を行う主人公のコブ。ある日、コブは夢の中に入ってインセプション(アイデアの植え付け)は可能かとサイトーに尋ねられる・・・。
ノーランの映画には、ちょっとしたセリフや状況設定にすごく説得力を感じる時があります。
「バットマン・ビギンズ」では、影の同盟のヘンリー・デュカード(リーアム・ニーソン)が「文明社会が堕落しきると、我々が滅ぼした」と語り、「時代を経て武器も進化し、”不況”という新手を使った」と言葉を続けます。”不況”を武器として使えるとは、影の同盟の力の凄さを感じさせます。
本作「インセプション」では、サイトー(渡辺謙)の依頼を受け、サイトーの競合相手の会社を潰すために、跡取り息子(キリアン・マーフィー)にあるアイディアをインセプション(植え付け)します。そのアイディアとは、跡取りの息子に向かって、すでに成功を収めた父親が「私のマネをするから失望した」というもので、これにより息子は父親のマネをやめ、自身の力で会社を経営しようと決意します。
跡取り息子が自分の思うように経営すれば会社が潰れるとは、だいぶ皮肉なことだと思いますが、それはそれで説得力のある話だと思いました。
『ダークナイト・ライジング』
出演:クリスチャン・ベール
マイケル・ケイン
ゲイリー・オールドマン
アン・ハサウェイ
トム・ハーディ
マリオン・コティヤール
ジョセフ・ゴードン=レヴィット
モーガン・フリーマン
上映時間:165分
公開:2012年
ダークナイト・トリロジーの三作目(完結編)
クリストファー・ノーランは当初、本作の製作に不安を持っていたようで、「基本的に、3作目は駄作が多い」(「ノーラン・バリエーションズ」トム・ショーン著 P247から引用)と発言しています。
作品自体はスーパーヒーロー物でありながら、より現実的で迫力のある映像のノーラン映画(駄作には程遠い)になっています。
『インターステラー』
出演:マシュー・マコノヒー
アン・ハサウェイ
ジェシカ・チャステイン
ビル・アーウィン
エレン・バースティン
マット・デイモン
マイケル・ケイン
上映時間:169分
公開:2014年
あらすじ
近未来の地球では、異常気象により農作物が育たなくなり、人類は滅亡の危機に陥っていた。人類は存続をかけて、別の銀河に第二の地球をさがす「ラザロ計画」を始めており、すでに人類の入植が期待できる3つの惑星の探索者から、信号が送り返されていた。主人公のクーパーはその3つの惑星に向けて、期待を背負って地球を出発する。
実在するアメリカの理論物理学者ブライアン・グリーンの著書に「エレガントな宇宙」という超ひも理論について書かれた本があります。その本を読んで驚いたのですが、なんでも超ひも理論によるとこの宇宙は11次元の世界とのことで、私は普段から11次元とはどんなものかと思っていました。
本作「インターステラー」の中で、格子状の不思議な空間(テッセラクト)が出てきます。その映像を観て「おお、これが11次元の世界か・・・」と思っていたら、後で読んだネットの解説記事で、テッセラクトは5次元の世界だということがわかりました。5次元でも複雑なのに、やはり11次元なんてとても想像できるシロモノではないようです。
『ダンケルク』
出演:フィン・ホワイトヘッド
トム・グリン=カーニー
ジャック・ロウデン
ハリー・スタイルズ
ケネス・ブラナー
キリアン・マーフィー
マーク・ライランス
トム・ハーディ
上映時間:106分
公開:2017年
あらすじ
第2次世界大戦初期の1940年5月、ドイツのフランス侵攻により、英仏軍は徐々にダンケルクへ追い詰められていく。これを受けて、イギリスの首相ウィンストン・チャーチルは、ダンケルクに追い詰められた35万の英仏軍を救出するために、「ダイナモ作戦」を開始する。
第2次世界大戦で実際に起こった「ダンケルク奇跡の撤退戦」を描いた作品。当初、船舶の不足により数万人程度の救出しか出来ないと考えられていたが、多くの民間人の船も協力して実際には英軍192,200名、仏軍139,000名が救出された。
実話が元になっている映画なので、奇をてらったシーンなどはないですが、ノーラン映画らしく3つの時間軸が複雑に交差しながらストーリーが展開していきます。
『テネット』
出演者:ジョン・デヴィッド・ワシントン
ロバート・パティンソン
エリザベス・デビッキ
マイケル・ケイン
ケネス・ブラナー
上映時間:151分
公開:2020年
あらすじ
CIA特殊工作員の主人公「名もなき男」は、ウクライナ・キーウのオペラハウスで起こったテロリストによる襲撃からCIAスパイを救出するも、敵に捕まってしまう。しかしその救出作戦は、人類を滅亡の危機から救う壮大なミッションのためのテストだった。そのミッションの名は『テネット』。
ノーラン映画史上、最高難度と言われる作品。
映画を観る時はなるべく事前情報を観ないようにしているのですが、ノーラン映画は難解なものが多く最低限の情報(監督のインタビューなど)は目を通すようにしています。本作も事前に「時間の流れる方向は、1方向だけではない」と語るインタビュー記事を読んでいたので、作品のなかで流れる逆再生の映像の意味は、すぐにわかりました。それでも、初見では作品の6~7割ぐらいしか理解できなかったです。
『SF映画術』ージェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座
著者:ジェームズ・キャメロン
訳:阿部清美
発行:2020年
発行元:DU BOOKS
ジェームズ・キャメロンが、「スピルバーグ」、「ジョージ・ルーカス」、「リドリー・スコット」、「ギレルモ・デル・トロ」、「クリストファー・ノーラン」の5人の映画監督と、「アーノルド・シュワルツェネッガー」との対談で、SF映画について語り尽くします。
本書の中でノーランは、映画 『インターステラー』について次のように語っています。
インターステラーで他に決めたのは・・・映画を観ても誰も気づかなかったかもしれないけれど、未来的なものは実際に何も作らないということでした。(中略)「今から40年後、みんなどんなズボンを穿いているだろう?」(中略)そんなこと誰にもわからないんですから。ー本書、P165から抜粋。
改めて本作を観ると、 自在に形を変える人工知能ロボット「TARS」などは出てきますが、確かに未来的な奇抜なデザインの服や物は何も出てきません。物語の設定は近未来ですが、未来的な物は何も出さないことで、逆にリアリティーを感じます。