年を取るにつれ、映画館で映画を観ることが減ってきました。理由はいろいろありますが、決して最近の映画がつまらなくなったとかではありません。しかし映画館に足を運ぶことが少なくなった中でも、「クリストファー・ノーラン」監督の作品は、なるべく映画館で観るようにしています。理由は作品の面白さと映像の凄さ。子供の時に感じた、映画が始まる時のワクワク感を今でも感じることができます。
本記事では、クリストファー・ノーランを扱った書籍や、ノーランの監督作品について書きます。
『ノーラン・ヴァリエーションズ クリストファー・ノーランの映画術』
著者:トム・ショーン
監修:山崎詩郎・神武団四郎
翻訳:富原まさ江
「大ヒット作に投影されたノーラン自身の経験、仕事に対する思い、インスピレーション、これまで詳しく語られなかった生い立ちが今、明かされる。」ー本書、背表紙、解説より。
20年以上前にノーランに知り合った著者が、数ヶ月かけたインタビュー、メモ、脚本、絵コンテ、イラスト等を元に、「クリストファー・ノーラン」の真の姿に迫ります。
本書のイントロダクション(はじめに)で、ノーランが魅力的だと語った事物のリストが載っていました。
ノーランが魅力的だと語った事物
・フランシス・ベーコンが描く歪んだ顔
・デヴィッド・リーン監督の『アラビアのロレンス』(1962)における英雄的存在の欠如
・キューブリック監督が『2001年宇宙の旅』(1968)でミニチュアモデルを使用したこと
・作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの作品
・コピーライターだった父親がリドリースコットの作品で手がけたCM
・映画におけるスケール感の錯覚
・アインシュタインの「双子のパラドックス」
・iPadの仕組みを誰も理解していないという事実
・デヴィッド・リンチ監督の作品
・GPS衛星が相対性理論の影響を考慮して作られているという事実
・16の時に逆再生で観た自然ドキュメンタリー
ー本書、P27、P28から抜粋。
ノーランの内面がほんの少しだけ見えた気がしました。
クリストファー・ノーラン 監督作品
『フォロウィング』
出演:ジェレミー・セオボルド
アレックス・ハウ
撮影:クリストファー・ノーラン
上映時間:69分
公開:1999年(英・米)、2001年(日)
あらすじ
作家志望の主人公ビルは、街で見かけた気になる人間を尾行することに取り憑かれてしまっていた。 ある日いつものように尾行をしていると、相手に気づかれてしまい、それから共に行動をすることに・・・。
クリストファー・ノーランの長編映画デビュー作。父親からプレゼントされたタイプライターで脚本を書き、自らカメラを持ち撮影をしました。スタッフや出演者はみんな他に仕事をもっていたため、週末にだけ集まり、ロケの許可もほとんど取らず撮影したために、背景に映る人はエキストラではなく一般人なのだそうです。
ノーラン映画の特徴のひとつ、いくつかの時間軸が交差しながら物語が展開していく特徴は、本作で早くも見られます。
『メメント』
出演:ガイ・ピアース
キャリー=アン・モス
ジョー・パントリアーノ
原作:ジョナサン・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
上映時間:113分
公開:2000年(米)、2001年(日)
あらすじ
主人公のレナードは、ある日強盗に襲われ、妻を殺され、自身は10分以上の記憶が保てない前向性健忘症を患ってしまう。レナードは亡き妻の復讐のために、わずかな手がかりをタトゥーで体に刻みながら、犯人「ジョン・G」を探し続ける・・・。
一躍ノーランの名を世界に知らしめたフィルム・ノワール作品。11の映画館で始まった上映は500以上の映画館に広がり、アカデミー賞の脚本賞、編集賞にもノミネートされました。
私が当時働いていた職場の若い同僚に「この映画、凄いですよ」と勧められて、DVDを買いました。これまでにない映画で、一気にクリストファー・ノーランのファンになりました。
本編を観たあと、DVD特典映像の「リバース再生」を観ました。本作品は物語の結末から始まり、話がどんどん遡って物語の始まりが映画のエンディングになります。(逆再生ではなく、短いプロットで時系列を遡って物語が進みます。)
リバース再生では本編とは違い、物語は時系列にそって進みますが、本編と特典映像(リバース再生)を見比べると、改めて本編の編集や構成のアイデアに驚かされ、面白さが確認できました。
『インソムニア』
製作総指揮:スティーブン・ソダーバーグ
ジョージ・クルーニー
出演:アル・パチーノ
ロビン・ウィリアムズ
ヒラリー・スワンク
上映時間:118分 公開:2002年
あらすじ
主人公のドーマーはロス市警のベテラン刑事。少女殺しの事件の応援でアラスカの田舎町に派遣されていたドーマーは、捜査中に誤って同僚を射殺してしまうがその事を伏せたまま捜査は続いていく。罪悪感とアラスカの白夜のために不眠症(インソムニア)になっていくドーマーにある日、同僚を射殺したことを知っている犯人から電話が掛かってきた・・・。
「メメント」でノーランの才能に惚れ込んだソダーバーグが、ジョージ・クルーニー共に製作総指揮を買って出たことで、本作が実現した。(ソダーバーグが直々ワーナー・ブラザース幹部と交渉をしたのだそうです。)
出演は、アル・パチーノ、ロビン・ウィリアムズ、ヒラリー・スワンクと、いずれもオスカーを獲得した名優揃い。公開時は、「誠実の人」ロビン・ウィリアムズが悪役を演じたことで、かなり話題になりました。ノーランが初めて大手映画会社やハリウッドスターと手を組んだ作品です。
ノーランの映画の特徴のひとつにあまりCGに頼らず、実写を多用した映像が挙げられます。本作の冒頭、主人公を乗せたセスナ機が深い霧の中へ入って行く映像は圧巻です。また犯人が少女に手をかける場面では、サブリミナルのように一瞬しか映らないのですが、それが逆に事の重大さを表していて効果的なシーンになっています。
『バットマン・ビギンズ』
出演:クリスチャン・ベール
マイケル・ケイン
リーアム・ニーソン
ケイティ・ホームズ
ゲイリー・オールドマン
渡辺謙
モーガン・フリーマン
上映時間:141分
公開:2005年
言わずと知れた、クリストファー・ノーランの代表作「ダークナイト・トリロジー」の1作目。
ティム・バートン監督の「バットマン・リターンズ」のあと、低迷を続けていたスーパーヒーロー映画に挑んだノーランは、よりダークで現実的なヒーロー像で、期待以上の映画を作りあげました。
『プレステージ』
出演:ヒュー・ジャックマン
クリスチャン・ベール
スカーレット・ヨハンソン
デヴィッド・ボウイ
上映時間:128分
公開:2006年(米)、2007年(日)
あらすじ
互いに競い合う奇術師のアンジャーとボーデン。ある日、アンジャーの瞬間移動マジックを解き明かそうと、舞台下に侵入したボーデンは、眼の前の水槽に舞台から落ちてきたアンジャーが溺れ死ぬのを目にする・・・。
ストーリー自体にいくつものトリックがあって、アンジャーとボーデン、二人を見る目がころころ変わってしまいます。
物語の結末でヒュー・ジャックマン演じる「アンジャー」が、自分のマジックの「恐怖」について語るシーンがあるのですが、このマジックのトリックを想像するとホントに怖いです。
これまで私が観た映画の中で、死ぬ時の表情が強く記憶に残っている俳優が二人います。一人は「L.Aコンフィデンシャル」のケビン・スペイシー。もう一人は、本作「プレステージ」のヒュー・ジャックマン。(水槽でのシーン)
『ダークナイト』
出演:クリスチャン・ベール
マイケル・ケイン
ヒース・レジャー
ゲイリー・オールドマン
アーロン・エッカート
マギー・ジレンホール
モーガン・フリーマン
上映時間:152分
公開:2008年
「ダークナイト・トリロジー」の第2作目にあたる作品。IMAXカメラで撮影された初の劇映画作品でもある。
本作はアカデミー賞において、8部門(助演男優賞、撮影賞、美術賞、メイクアップ賞、視覚効果賞、音響編集賞、編集賞、録音賞)にノミネートされ、バットマンの中で最も人気のある悪役、「ジョーカー」を演じたヒース・レジャーが見事「助演男優賞」を獲得、その他に「音響編集賞」も受賞した。
しかし観客や批評家からも評価の高かったにもかかわらず、「作品賞」にノミネートされなかった事に批判が集まったために、翌年の第82回アカデミー賞から、作品賞のノミネート数が5作品から10作品に増加されました。