その進路へ向かうには、面舵か取舵か?
鎌倉投信社長の鎌田恭幸さんと金融教育家で作家の田内学さんの対談記事を読みました。対談は、投資に対する新しい考えをテーマにした内容で気になることが多かったので、二人の書籍を読んでみました。
『社会をよくする投資入門』
ー経済的リターンと社会的インパクトの両立Kindle版
著者:鎌田恭幸
発行:2024年5月27日
出版社:ニューズピックス
現在の投資の世界で大人気のインデックスファンド。そのインデックスファンドへの投資に疑問を持つ著者が、投資を考えるさいのリスク・リターンに続く新たな尺度として、(社会・未来・個性)を提案する。
本書の中で、著者の鎌田恭幸さんは、1970年代までの経済危機は、実体経済における生産と消費のアンバランスにより起きていたが、1980年代以降の経済危機は「お金を増やすだけの投資」が原因になっていると指摘し、実体経済よりも大きくなりつつある金融市場が経済や社会を不安定化させていると説明しています。
そんな不安定化に対して鎌田恭幸さんは、お金お増やすことと「社会をよくする」ことを両立させる「投資」を提案する。
インデックスファンド投資は対象となる株式指数に組み込まれた会社すべてに投資するために「いい会社」「悪い会社」のすべてに投資してしまう。また良い運用成績を出し続けるためには、それらの多くの会社が利益を出し続けねばならない。つまり経済規模が拡大し続けることを前提とした投資になっているという。
これに対し、鎌田恭幸が代表を務める鎌倉投信では、厳選した「いい会社」への投資を行う。
鎌倉投信では「いい会社」の条件として、
1,人:人材を活かせる会社
2,共生:持続的社会を想像する会社
3,匠:感動的なサービスを提供する会社
の3つを挙げ、実際に会社を何度も訪問して調査しているという。
「インデックス運用はいい未来を作るか?」本書の目次に書かれたこの一文を読んで私は思わず、えっと思いました。
私は6年程前から老後資金を作るためにNISAやiDeCoを利用して、インデックスファンドの積立投資を行っています。
ほとんどの投資入門書の冒頭には、「株式投資は株式を通じて会社に資金を提供することで、経済活動に貢献している」みたいな文章が書かれています。またインデックスファンドで長期投資を行う事が長い目で見てデイトレードやアクティブファンド投資よりも運用成績が良いとも書かれています。
そういった入門書を読んだ私は、「インデックスファンドでの長期投資」は、投機的なマネーゲームのようなものではなく、僅かだが経済活動にも貢献しているとずっと思っていました。そんな考えの私の頭に「インデックス運用はいい未来を作るか?」の言葉は引っかかりました。思い返してみると日頃気にするのは運用成績ばっかりで、投資によって社会の未来がどうなるかなんて考えもしてませんでした。
『お金のむこうに人がいる』
ー元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた予備知識のいらない経済新入門 Kindle版
著者:田内 学 発行:2021年
出版社:ダイヤモンド社
『純粋に経済を突き詰めて考えたときに見えてきたのは、お金ではなく「人」だった。』ー本書、P.7
読み通せば、「人」で考える経済学がけっして道徳的でなく、より経済的なことがわかります。子供にぜひ勧めたい1冊です。
国の借金も年金の問題も、お金が問題ではないと著者の田内 学さんは語ります。日本は現在1000兆円以上の多額の借金を抱えているが、破綻する兆しはまだ見えていません。一方で日本よりも少額の借金で財政破綻した国はいくつもあります。破綻する国としない国の違いは何なのか?
実は破綻した国は「多額の借金」が問題なのではなく、「働かない国」あるいは政治的・軍事的な国内問題のために「働けない国」が破綻するのだと説明しています。
例えば、国が多額の借金をしてコメを買おうとする時に、買うコメをすべて日本の農家から買った場合は、国の財布から農家の財布にお金が移動するだけなので問題はないが、日本に米を作る農家が一人もいないために、すべて外国から米を買うとなった場合は、国に借金は残るが、お金はすべて外国に移ることになる、そこに経済的な問題があるという。
つまりお金がいくらあっても、米を売ってくれる人(働いてくれる人)がいないと、どうにもならず、この話を突き詰めていくと、これからの日本の大きな経済的問題は『少子化』だと述べ、少子化になるということは、働いてくれる人が減ることを意味していると解説しています。
さらに著者は本書の中で、
『年金問題を話すときには、「1人の高齢者を●人の現役世代で支えている」という話をよく聞くのに、「1人の子どもを●人の現役世代で支えている」という数字を目にすることがほとんどない。1人の女性が産む子どもの人数しか気にしない。』ー本書 P.222
と述べ、現代社会は、「子育ての負担」を考えなくなったとことも問題だと指摘しています。
ちょっと話は変わりますが、舟や船舶が進路方向を変える時によく「舵を切る」と言い、船が右に行く場合は面舵、左に行く場合は取舵と呼びます。実はこの面舵と取舵ではスクリューの回転方向や水流の関係で曲がりやすさが違い、一般的に面舵が曲がりやすいと言われています。
鎌田恭幸さんのお金を増やすだけでなく「未来を考えた投資」の話や、田内 学さんの経済を考える時に、お金に注目するのではなく「その向こうにいる人」を考えるという話は、すごく納得させられました。そして社会はその方向へ舵を取らないといけないと考えました。
しかし「未来を考えた投資」は欲望を抑えることでもあり、少子化対策は「子育ての負担」が増えることになります。
より良い社会を目指すためのその舵とりは間違いなく取舵(曲がりにくい)になるだろうと思えますが、たとえ曲がりにくても舵は切り続けなければならないと思いました。