核融合。物理学と神

映画「オッペンハイマー」を観たためか、「核」とか「原子力」などの文字がやたら目に入るようになりました。


『よくわかる最新 核融合の基本と仕組み』 

著者:山崎 構造
発行:2023年
発行所:株式会社 秀和システム

第1章:核融合の基礎(核物理学)
第2章:プラズマの基礎(プラズマ物理学)
第3章:地上に太陽を作る
第4章:トカマク炉心を制御する
第5章:核融合炉機器の多様な技術
第6章:核融合炉発電の可能性
第7章:核融合炉実用化への道のり
第8章:エネルギーの未来を考える

数年前知った核融合エネルギーに改めて興味を持ちました。石油の800万倍ものエネルギーを発生させると言われる「核融合発電」を知りたくて本書を読んでみました。

「核融合発電」は、燃料となる水素が半永久的に採取でき、暴走の危険性がないこと、またCO2を出さず、使用済み核燃料の保管期間が原発のものより短いこと(核融合発電では100年。原子力発電では最低でも10万年)など、未来のエネルギー源として世界中で注目されています。

そんな「核融合発電」は現在、人類初の核融合実験炉を目指し、大型国際プロジェクト「ITER(イーター)」計画が進められています。


私は核融合発電を「脱炭素の夢のエネルギー」としてだけではなく、別の視点でも期待しています。その視点とは「世界平和」。

核融合発電が実現して石油への依存が減れば、いわゆる「オイルマネー」の力が弱くなっていくと考えられます。オイルマネーが弱体化すれば、「世界の火薬庫」と呼ばれる中近東の情勢も少しは変わるのではないかと考えてます。

またイスラム国(IS)や、タリバン、すでに死亡したビンラディン等のテロや過激派組織は、オイルマネーが支えているとも言われています。オイルマネーの弱体化は、テロや過激派組織の弱体化につながる可能性があるかも知れません。他にも、ロシアの天然ガスなどへの依存が減れば、ロシアも他国への軍事行動を行う余裕がなくなるかもしれません。

もちろん核融合発電が実現すればすぐに世界平和が訪れると、簡単に物事が運ぶとは思っていません。しかし全く影響がないとも思いません。核融合発電が平和の実現に向けてちょっとしたきっかけになってくれたらと思っています。

核融合発電が実現可能なのは早くても2050年ごろだと言われています。もしかしたら私が生きている間は、実現が無理かもしれません。また実現可能になったとしても、既得権益層などの反発で実現が遅れたりする可能性は十分にあると思います。

ちなみに私は、ヒューマニズムみたいな事で「世界平和」を願っているわけではありません。少しはそれもありますが、あくまでも合理的に考えたら、世界は平和の方が断然いいに決まっている(当たり前ですが)、例えば削減できた防衛費を社会保障に回せば、老後の心配などせずに楽しく生きられるのではないかと考えています。「そんな危機感の無いことを、言ってんじゃねぇ」と言われそうですが、そんな危機感が案外揉め事の火種だったりするんじゃないかとも思っています。


『Newton 核融合への夢』 Kindle版

発行:2015年
発売:ニュートン プレス

科学雑誌『Newton』2015年1月号に掲載された特集記事の電子版。「核融合」エネルギーの基礎から研究の最前線までを紹介しています。 

先に紹介した『よくわかる最新 核融合の基本と仕組み』を読んでみて、正直、物理学の基礎的な事を知らない私の頭では、半分も理解出来ませんでした。これではマズイと思い、とりあえず基本的な事だけでも理解したくて本書を購入。特集記事の電子版なので41ページと少ないですが、基本的な事を知るのに最適な入門書です。


『福島第一原発事故の真実』

著者:NHKメルトダウン取材班
発行:2021年
出版社:講談社

「あの時、実際には何が起こっていたのか」10年におよぶ取材期間、1500人以上の関係者への取材により明らかになった福島第一原発事故の真相。

「あの危機的状況の中、人間は核を制御できていなかった」

浮かび上がってきたのは、驚くべき事実です。

将来「核融合発電」が実現したとしても核融合発電所の建設がスムーズにいくかわかりません。広島、長崎、そして福島と日本は三度の被爆を経験しました。核アレルギーとまでいかなくても、発電所建設に抵抗があるのは容易に理解できます。

私は核融合発電の実用化には期待していますが、原子力発電所の運用には反対の考えです。理由は、メルトダウンが起きた場合の損害があまりにも大きく、リスクとリターンが釣り合っていないと思うからです。核融合発電にしてもこれから先に、大きなリスクがあるとわかった場合には実用化反対に意見が変わるかもしれません。

もうひとつ原発反対の理由として、運用の仕方への不信感があります。

よく事故が起きた場合に「被害が出たのは想定外の事が起きたから」というような事を耳にします。福島第一原発事故においても、想定外の津波の高さであったために、被害を受けメルトダウンが起きてしまったと、何度もテレビなどのニュースで流れてました。

それならなぜ始めに「何らかの理由でメルトダウンを起きてしまった」というような想定をしないのかと思ってしまいます。メルトダウンが起きるか起きないかの想定ではなくて、メルトダウンが起きてしまったという想定です。

「そんなことを言ったら、原発が作れない」とか「そんな身も蓋も無い事を言うな」とか言われそうでうが、始めからメルトダウンを想定しないことがかえって「本当は無理をして運用しているんだよ」と言われているような気になってしまいます。


原爆などの物理学。遺伝子操作などの生物学。脳死や臓器移植などの医学。AIやネットなどの情報技術。現代の科学や技術は、倫理が問われる事が増えたように思います。これから先の科学や技術がおかしな方向に行くのではないかと思う時があります。全ては人間の欲望の問題だとおもうのですが・・・。

作家の村上龍さんが以前に、自身が運営するメールマガジンで「良い欲望と悪い欲望を分けるには、宗教の力を借りなければできません」という事を語っていました。宗教の力が弱くなった日本では、ますます人間の欲望を抑えるのは難しいのかもしれません。

『物理学と神』

著者:池内 了
発行:2019年
  (原本は2002年に集英社より刊行)
出版社:講談社学術文庫

歴史的に物理学者は、物理法則の美しさを「神」や「悪魔」などを用いて表現してきたという。

絶妙な自然の摂理に神の存在を感じてしまう。そんな物理学者と神の関係で説明する物理学の歴史。

近代科学も神と無縁ではない。

神の挑戦を退け、悪魔を退治し、パラドックスを解決してきたと自認したがる厚顔な物理学者は増長し、ついにはこの宇宙の目的は人間を作ることにあるとまで宣言する始末となってしまった。(ー本書 P236~237より)


#核融合 #物理学 #原子力 #池内了

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