ウィキペディアによると『リバタリアニズム』とは、「個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する、自由主義上の政治思想・政治哲学の立場」とあります。そしてリバタリアニズムを主張する者をリバタリアンと呼んでいます。
橘玲『テクノ・リバタリアン』を読みました。
「テクノ・リバタリアン」とはリバタリアンの中でも極めて高い論理と数学的知能を持ち、世界を数学的に把握することが出来る人たちのこと。
著者の橘玲さんは、科学とテクノロジーが高度化したことで、世界を変えることができる思想はリバタリアニズムだけだと語っています。
『テクノ・リバタリアン』
著者:橘玲
発行:2024年
発行書:文藝春秋
テクノ・リバタリアンには、「テスラ」のイーロン・マスクや、「ペイパル」の共同創業者のピーター・ティール。他にもGoogle、Amazonの創業者やチャットGPTを開発した「オープンAI」のサム・アルトマンなどがいます。
確かに、世界に影響力のある錚々たる顔ぶれをみると、「テクノ・リバタリアン」がわたしたちを未来に導くと述べる著者の言葉には説得力があります。
もっと「リバタリアニズム」を知りたくて、渡辺靖『リバタリアニズム』を読んでみました。
『リバタリアニズム』
著者:渡辺 靖
発行:2019年
発行書:中公新書
正直に言って、私は、「リバタリアンとは自由主義者で、小さな政府を好み、福祉政策などには消極的」ぐらいの知識しか持っていませんでした。
著者の渡辺 靖さんは、本書の中で「日本でリバタリアニズムの話をすると、「市場万能主義」や「弱者切り捨て」と同一視されることが多い。アメリカではそれらに加えて「ヒッピー」や「裕福な白人」などのステレオタイプもある。」ー本書、P.208 としています。
私の知識もそんなステレオタイプの情報だったんだなと知りました。
実際に本書を読むと、リバタリアンには右派も左派もいて、いろいろな考えの人がいることがわかります。私はリバタリアンではないですが、納得できるリバタリアンの政策や共感できる考えも多く、反リバタリアンでもないと感じました。
著者の渡辺靖さんはリバタリアニズムを「世界・現実・人生を意味づける際の思考の選択肢」として、また「少しでも多くの選択肢が認められる社会に近づくことができればと思う。」ー本書P.210 とまとめています。
ピーター・ティール『ZERO to ONE』は、起業家を目指している人向けに書かれたビジネス書です。
『ZERO to ONE 君はゼロから何を生み出せるか』
著者:ピーター・ティール
:ブレイク・マスターズ
発行:2014年
発行書:NHK出版
ピーター・ティールは、テクノ・リバタリアンの一人で、世界最大のオンライン決済システム、ペイパルの共同創業者であり、フェイスブックの最初の外部投資家でもあります。
そんなピーター・ティールが、学生向けに行った「起業論」の講義をもとに本書『ZERO to ONE』を書きました。
「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」この質問からは始まる、未来を見据えた起業論は、たとえ起業するつもりはない人や、リバタリアンの思想に反対の立場の人でも一読の価値はあると思います。
「明晰な思考のできる人は珍しいし、勇気のある人は天才よりもさらに珍しい。」ー本書P21~22
「カネのことしか考えられない企業と、カネ以外のことも考えられる企業とでは、ものすごい違いがある。」ー本書P57
あたり前ですが、リバタリアンと言っても色々な人がいます。マシュー・ホンゴルツ・ヘトリング『リバタリアンが社会実験してみた町の話』は、アメリカ、ニューハンプシャー州の片田舎、グラフトンに自由を求めたリバタリアンが集まって、理想とする町を作ろうとした話が書かれています。
『リバタリアンが社会実験してみた町の話』
著者:マシュー・ホンゴルツ・ヘトリング
訳:上京 恵
発行:2022年
発行所:原 書房
リバタリアンは自由を求め、国家の規制などに反対するために「小さな国家」を重んじます。グラフトンに集まったリバタリアン達も、無駄なサービスに税金を払いたくないとして、いろいろな公共サービスの予算を削減。 ーその結果どうなったか?
消防署はまともに機能せず、実際に起きた火事にも消火活動が出来ない状態に。また何度も出没するようになった熊にも効果的な対策は何もなされず、そのために熊に襲われ重症者が出る事件も発生しました。
本書に登場する人達をみてると、”自由を求めるリバタリアン”というよりは、「ただ税金が払いたくなかっただけじゃないか」とさえ思えてきます。
「個人の自由と国家」、「税金と公共サービス」など、個人と社会の関わりについて改めて考えさせられる1冊です。