私が子供の頃は、一流大学へ入り一流企業に就職することを人生の王道とする風潮がありました。1991年にバブル景気が幕を閉じると、人生の王道に「公務員」が加わります。
いま、あの頃を思い返してみると老後について語られていたことが少なかったように思います。また現在よりも年金制度への心配が少なかったためか、老後資金などの言葉もあまり耳にしませんでした。
WHO(世界保険機関)が発表した2019年の統計によると、日本の平均寿命は、現在、世界1位(男女)になっています。(男性は81.5歳でスイスに次いで2位、女性は86.9歳で1位)、また国連の推計によると2007年に日本で生まれた子供の半分は、107年以上生きるとの予想がでています。まさに人生は「100年時代」に突入しています。
この記事では長寿化を見据えた人生設計に参考になる本を2冊紹介したいと思います。
『LIFE SHIFT』
著者:リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット 訳:池村千秋
いろいろな統計をみると、世界は確実に「長寿化」の方向に進んでいます。長寿化の問題を考えた場合、生活費などの老後資金や、病気、医療費など、やたらネガティブなことが多く目立ちます。暗い話が多い長寿化の問題を厄災ではなく恩恵に変えるために、長寿化への対応策を考え、人生を構成し組み立てることが本書の主なテーマになっています。
本書によると、20世紀には人生を3つのステージに分ける考え方が定着していました。20代までの「教育のステージ」、20代から60代までの「仕事のステージ」、そして60代以降の「引退のステージ」の3つです。しかし平均寿命が伸び続け(現在、10年で2歳のペースで伸び続けている)、長寿化を迎えた時代にはこの3つのステージの考え方が通用せず、人生のあり方が根本から変わると予想しています。
中でも大きく変わるのが、「仕事のステージ」。100歳まで生きるとしたら、場合によっては80代まで働かなくてはいけないとして、それにともなう学び直しやスキルの再取得などが必要であると提言しています。そして個人だけでなく企業や社会も大きく変わらなければいけないと説いています。
また、これまでの3ステージの人生からマルチステージの人生へと変わるとし、職業を決める前に幅広い針路を検討する「エクスプローラー(探検者)」や、小さなビジネスを起こす「インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)」、複数の仕事や活動に同時に携わる「ポートフォリオ・ワーカー」などの、新たなステージの可能性についても語っています。例えば、30代までエクスプローラーとして過ごして40代から就職したり、60代の新人ポートフォリオワーカーが増えるなど、これまでの常識から外れた働き方が出てくるとしています。
他にも金銭的資産だけではなく、無形資産として、スキルや知識などの「生産性資産」、健康や友人・家族との良好な関係などの「活力資産」、新しい経験に対して開かれた姿勢をもち、多くの変身を行うなどの「変身資産」の3つの無形資産の重要さも挙げています。
長寿化の恩恵を受けるためには、自分の価値観をうまく人生に反映させながら、人生の途中での変身もいとわない多様性と柔軟性が必要であるとしています。重要なのは、いま変化を予期して行動し適切な準備をする事だとしています。
寿命が伸びたからといって、必ずしも人生に恩恵をもたらすとは言えません。50代で病を抱え、100歳まで闘病生活を続ける生活は、精神的にも経済的にも負担になり、本人だけでなく周りの家族にも大きなストレスを与えることになりかねません。
『LIFE SPAN』
著者:デヴィッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント 訳:梶山あゆみ
本書は「老化」と「健康寿命」について書かれた本です。著者のデビット・A・シンクレアは世界的な科学者で、ハーバード大学の遺伝学の教授。将来、人間は120歳まで健康で暮らせるようになると明言しています。
これまでの遺伝子研究によって、長寿化遺伝子(サーチュイン遺伝子)の存在が明らかになりました。このサーチュイン遺伝子をカロリー制限を行うなどにより活性化させると、活性化したサーチュインが老化した細胞に働きかけDNAを修復して細胞を若返らせることが確認できています。これにより、「健康寿命」を延ばせるというわけです。
「老化」は一種の病気であり治療ができるとしていて、将来には老化対策の予防接種や細胞のリプログラミングなどで老化はリセットできるとしています。
終章の「おわりに」では、著者自身が老化対策のために実践していることを具体的にいくつか紹介しています。(すぐに実践できる項目が多いです)
NMN(ビタミンB3に含まれる成分のひとつ。サーチュイン遺伝子の活性化に効果がある)や、メトホルミン(経口糖尿病治療薬のひとつ)などのサプリ類の紹介や、その選び方も解説しています。
これまでに読んできた「健康法」について書かれた本の中では一番のおすすめの本です。
「ライフ・シフト」、「ライフスパン」の2冊はともにベストセラーです。両作品に共通しているのは、これから訪れる「長寿化」に対して対応策が必要であるということ。それによって、長くなった人生を素晴らしいものに出来るとしています。自分の子供が大きくなった時にすすめたい2冊です。
「ライフ・シフト」に引用されていた印象的な言葉を2つ紹介。
ひとつは、17世紀の政治思想家、トーマス・ホッブズの言葉で「人生は不快で残酷で短い」ー本文P21。
この言葉に対し著者のリンダ・グラットンは、これよりもひどい人生はひとつしかない、
「不快で残酷で長い人生だ」と述べています。
もうひとつの印象的な言葉は
「あらゆる事態に備えていないということは、まったく備えがないのと同じだ」ー本文P118。
アメリカの小説家ポール・オースターが述べた言葉です。