心に残る物語ー日本文学秀作選(2)

短編小説集

文春文庫35周年を記念して刊行された短編小説集。、6人の作家が選んだ短編小説を、作家別で6冊にまとめれられています。

今回は沢木耕太郎、石田衣良、桐野夏生、の3人が選んだ短編小説集を紹介します。(残りの3人、宮本輝、浅田次郎、山田詠美が選んだ短編小説集はこちらの記事です。)


『右か、左か』 沢木耕太郎 編

「魔術」芥川龍之介、「寝台の船」吉行淳之介、「散る日本」坂口安吾、「賽子無宿」藤沢周平、他、全13編収録。

収録作品の中で、特に好きな作品は「黄金の腕」阿佐田哲也と、「レーダーホーゼン」村上春樹。

「黄金の腕」はまさに勝負師が書いた作品。勝負の緊張感に、心がヒリヒリして、周りに押しつぶされそうになる。そんな感じの小説です。冒頭に”マージャンに興味のないお方の読むマージャン小説と謳っているが、その通りの小説だと思いました。

「レーダーホーゼン」は、個人的には共感できないが腑に落ちる話でした。「この話のポイントは半ズボンにあるのよ」ー本書、P410、16行目。村上春樹さんの小説はいつもメタファーについて考えさせられます。


『危険なマッチ箱』 石田衣良 編

「紫苑物語」石川淳、「朽助(くちすけ)のいる谷間」井伏鱒二、「防空壕」江戸川乱歩、「日向/写真/月/合掌」川端康成、他、全14編収録。

収録作品の中で、特に好きな作品は「おーいでてこーい/月の光」星新一と、「眼前口頭 他より」斎藤緑雨。

星新一さんの「おーいでてこーい」は、だいぶ昔に読んだのですが、テレビドラマ『世にも奇妙な物語』で「穴」というタイトルで放映されているのを観て思い出して、また読み直しました。何度読んでも面白いです。

「眼前口頭 他より」は、斎藤緑雨さんの数々のアフォリズム(物事を簡潔に鋭く表した言葉。警句。箴言(しんげん)。)をまとめた作品です。

○涙ばかり貴きは無しとかや。されど欠(あく)びしたる時にも出づるものなり。 ー(本書 P177)

○懺悔は一種のゝろけなり、快楽を二重にするものなり。懺悔あり、故に悛(あらた)むる者なし。懺悔の味(あじわい)は、人生の味(あじわい)なり。 ー(本書 P178)


『我等、同じ船に乗り』桐野夏生 編

「骨」林芙美子、「忠直卿行状記」菊池寛、「ねむり姫」澁澤龍彦、「鍵」谷崎潤一郎、他、全11編収録。

収録作品の中で、特に好きな作品は「芋虫」江戸川乱歩と、「水仙」太宰治。

「芋虫」は好きな作品というよりも、衝撃を受けた小説。生々しくて残酷で、読んだことを少し後悔しそうになる小説でした。寺島しのぶ主演の映画「キャタピラー」は、この小説をモチーフにしているそうです。

「水仙」は、「忠直卿行状記」を読んだ主人公がある疑念を抱えながら、物語が進んで行く話。なので「忠直卿行状記」を読んでから「水仙」を読んだほうが面白い。主人公が抱いた疑念があくまで主人公が感じたものなのか、著者の太宰治が抱いた疑念なのかはわかりませんが、改めて小説の受け取り方は人それぞれだと、気づかせてくれる作品です。


#短編小説 #沢木耕太郎 #石田衣良 #桐野夏生

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