短編小説集
小説は長編も短編も好きです。短編小説集の場合、1人の作家の短編集より多くの作家の作品が載った短編集の方が、作風も世界観も変わるので飽きずに読めます。
今回紹介する短編小説集は文春文庫三十周年と三十五周年を記念して刊行されたものです。宮本輝、浅田次郎、山田詠美、沢木耕太郎、石田衣良、桐野夏生、の6人の作家が選んだ短編小説を作家ごとにまとめています。巻末のあとがきでは作家による選んだ小説の解説なども載っています。
この記事では、その中から3冊を紹介したいと思います。(残り3冊は別記事で紹介します。)
『魂がふるえるとき』 宮本輝編
「玉、砕ける」開高健、「幻談」幸田露伴、「ひかげの花」永井荷風、「外科室」泉鏡花、他、全16編収録。
収録作品の中で私が特に好きな作品は、水上勉の「太市」と、井上靖の「人妻」。
「太市」を読みながら私は、子供の頃の不条理なできごとや理不尽なこと、また子供の時に味わったちょっとした”怖い出来事”を何度か思い返しました。そして読み終えた時には、”デビット・リンチ”監督の映画「エレファント・マン」を思い出しました。
「人妻」はわずか1ページの超短編ですが、人生が凝縮されていて物足りなさを感じさせない小説です。特に男性は主人公の気持ちがわかるのではないでしょうか。小説家の凄さをあらためて知った作品です。
『見上げれば 星は天に満ちて』 浅田次郎編
「百物語」森鴎外、「ひとごろし」山本周五郎、「西郷札」松本清張、「耳なし芳一のはなし」小泉八雲、他、全13編収録。
収録作品の中で私が特に好きな作品は、中島敦の「山月記」と井上靖の「補陀落渡海記」。
「山月記」はとにかく文体がきれいですね。この作品を読んで、若い頃から勉強嫌いだった私が、35にして初めて”漢詩”に興味を持ちました。
「補陀落渡海記」は、”人間と信仰”、”生き方と死に方”を考えさせる小説です。好きな小説には、作品の中で衝撃を受けることが多いですが、この小説にも衝撃を受けました。
『幸せな悲しみの話』 山田詠美編
「化粧」中上健次「愚者の街」半村良「クリストファー男娼窟」草間彌生「霧の中の声」遠藤周作、他、全8編収録。
収録作品の中で私が特に好きな作品は、半村良の「愚者の街」と八木義徳「異物」。
「愚者の街」特に男なら”夜の街”に入り浸る時期があるのではないでしょうか。私はこの小説を読んで”夜の酒の香りと、”朝の酒の臭さ”を考えました。
「異物」子供の頃に、大人に言われたちょっとした一言が、その子供にとっては深く心に残り、やがて妄想へと大きく変わっていく物語。ー妄想までいかなくても、子供の頃に大人に言われた人生を変えるような”ちょっと”した言葉って、誰にでもあると思います。