『照柿』著者:高村薫
あらすじ
暑さが残る夏の夕方、主人公の刑事”合田雄一郎”は駅のホームで人身事故を目撃、そこに居合わせた女、”美保子”と出会い一目惚れをしてしまう。しかし、その”美保子”は雄一郎の幼なじみ、”野田達夫”と関係のある人物であった。偶然にも再開した合田雄一郎と野田達夫、やがて二人の人生は少しずつ狂い始める・・・。
本書は高村薫の小説、刑事”合田雄一郎”シリーズの2作目です。
それまで、あまり小説に関心が無かった私が、小説を読むきっかけなった1冊です。
三浦友和、野口五郎、田中裕子主演のNHKドラマをみて興味を持ちました。当時、仕事が忙しく、いつも倦怠感につつまれていた私は、そのドラマの底に流れる重苦しさに惹かれました。(ちなみに私の中の合田雄一郎のイメージは、三浦友和さんです。)
小説は重厚な文体で、二十歳をすぎてから本を読むようになった、読書の基礎体力のない私には、結構むずかしい作品でした。しかし面白かった為、最後まで飽きずに読めました。
27年程前に読んだ作品ですが、冒頭のダンテの神曲から引用した一文や、作品に出てきた文章「不実の上に不実を重ねる自虐的な快感」などは、今でも心に残っています。
また警察組織や捜査状況の描写、博徒と手本引きを行うさいの心理描写など、圧倒的にリアルで、自然と作品に引きこまれていきました。
のちに放映されるテレビドラマ、「踊る大捜査線」で出てくる”管理官”などの役職名は、高村薫さんの小説で知りました。
読み終えた後に『このミステリーがすごい!』(宝島社が行っているミステリー小説のブックランキング)に「照柿」が3位にランクインしているのを知って、「このミステリーがすごい!」を読みました。”疲れている時にぜひ読んで欲しい作品”と書かれた書評にすごく納得したのを覚えてます。
これから読まれる方は、できれば疲れた時に読んでみたら、より楽しめると思います。
『マークスの山』著者:高村薫
あらすじ
10歳の時に両親の無理心中に巻き込まれ、1人生き残ったマークス。無理心中の後遺症で精神分裂病になったマークスが、やがて次々と連続殺人を引き起こしていく。一方、刑事・合田雄一郎は懸命の捜査で少しずつだが、確実に犯人に近づいていた・・・。
合田雄一郎シリーズの1作目にして、著者、高村薫の直木賞受賞作。
「このミステリーがすごい」1994年版第1位獲得。映画化(中井貴一主演)や、WOWOWでドラマ化(上川隆也主演)もされた作品です。
ドラマ版マークスの山
『レディ・ジョーカー』著者:高村薫
あらすじ
「俺たちは、ジョーカーみたいなもんだ」 競馬場で知り合った五人の男が大手ビールメーカー、日之出麦酒(ビール)に20億円もの身代金を要求した。人質は、350万キロリットルのビール。
警察と検察、犯行グループと企業、さらに総会屋、マスコミを加えて、それぞれの思いが絡みあいながら事件は複雑に進んで行く・・・。
80年代に実際に起きた、”グリコ森永事件”をモチーフに書かれた、社会派小説の大作です。合田雄一郎シリーズ3作目の作品。
第52回毎日出版文化賞受賞。1999年版「このミステリーがすごい」第1位。ベストセラーにもなっています。
この作品も映画化(渡哲也主演)、WOWOWでドラマ化(上川隆也主演)されています。
映画版レディ・ジョーカーでは、大杉漣演じる”布川淳一”が、重い障害を持つ娘、”レディ”を競馬場に置き去りにするシーンに胸が締め付けられる思いでした。
映画版レディ・ジョーカー
著者の高村薫さんは、阪神淡路大震災を経験され、作風が大きく変わりました。もともと重厚な小説を書きますが、作風が変わってからはサスペンス色が薄まり、人物の内面とそれを取り巻く環境の描写がより深くなって、さらに重厚さが増しました。
”刑事・合田雄一郎シリーズ”も4作目の「太陽を曳く馬」から作風が大きく変わっています。
あるインタビューの中で「小説の中で人を殺せなくなった」と語っていました。