今年のノーベル平和賞に、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が選ばれました。
日本被団協のノーベル平和賞受賞のニュースを見ながら、”平和”には進歩みたいなことはあるのかと、ふと考えてしまいました。
ノーベル賞で平和賞以外の分野、特に科学系の分野(物理学、化学、生理学・医学)では、毎年新しいことが発見されたり、これまで解明できなことが解明できたりと、その分野の進歩的な状況が伝わってきます。
化学系以外でも、経済学では、新しい経済理論が生まれたり、文学賞ではより多様化された世界の文学を知ることができます。
しかし平和に関しては、現在の世界をみても、進歩というものは感じられません。(けっして「平和賞」を批判しているのではありません。)
もしかすると、「平和」というものは、不老長寿と並ぶくらいの人類に突きつけられた難題かもしれないと思いました。
ネットで「世界 紛争 現在」と検索すると、現在続いている世界の紛争として、「パレスチナ問題、ウクライナ侵攻、アフガニスタン紛争、シリア内戦、リビア内戦、 イエメン内戦。」などが検索結果として出てきました。
ライフサイエンス著『世界の紛争地図 すごい読み方』(三笠書房)では、上記の紛争の他に、中国の(台湾、香港、新疆ウイグル、内モンゴル、カシミール問題)や、コロンビア内戦、ベネズエラ危機、コンゴ紛争、ソマリア内戦、マリ北部紛争など、その他にも多くの紛争や問題を取り上げています。
『世界紛争地図 すごい読み方』
著者:ライフサイエンス
発行:2021年
発行所:三笠書房
また、祝田秀全(監修)『地図でスッと頭に入る世界の民族と紛争』(旺文社)では、民族を視点の中心に据えて、世界の紛争をわかりやすく解説しています。
『地図でスッと頭に入る世界の民族と紛争』
監修:祝田秀全
発行:2022年
発行所:旺文社
本書によると、民族とは、言語、文化、慣習など社会的な特徴による分類としています。そして民族間の問題は、紛争につながる定番の問題のひとつとだと解説しています。
あらためて世界をみてみると、世界は平和の進歩どころか、紛争だらけの状態です。
2023年6月に放送されたNHKスペシャル『ヒューマンエイジ 人間の時代 第2集 戦争 なぜ殺し合うのか』では、戦争を繰り返す人間の本性の謎に迫っていました。
番組では戦争を繰り返すのは、脳の中で産生されるホルモンの一種、『オキシトシン』が原因の一つであるとしています。
オキシトシンは「絆ホルモン」とも呼ばれていて、その影響は、協力的になったり「仲間を守りたい」と思うようになったりする一方で、「仲間以外を線引き」して攻撃的になることがわかってきています。
つまり、「仲間を守りたい」という優しさが、「仲間以外を排除する」という皮肉な結果につながっているわけです。
私はこの解説を、リチャード・ドーキンスに代表される「利己的遺伝子論」にも通じる話だなと思いながら番組を観ました。
『利己的な遺伝子』〈増補新装版〉
著者:リチャード・ドーキンス
訳:日高敏隆
:岸 由二
:羽田節子
:垂水雄二
発行:2006年(日本初版発行:1980年)
発行所:紀伊國屋書店
子育てや身内を守る行動は、一見すると利他的な行動にも見えるが、種を残していきたい遺伝子からすれば、利己的な行動である。
これから、脳科学や認知科学などが発展してくことで、「お前の敵対心は、本能からくるものなんだよ」といった分析が可能になるのではと期待しています。その結果、恨みなどのネガティブな感情が減っていってくれる世の中になってくれればと思っているのですが。
スティーブン・ソダーバーグが監督をし、マイケル・ダグラス、ベニチオ・デル・トロが出演した、『トラフィック』という麻薬を取り巻く世界を描いた映画があります。
『トラフィック』
監督:スティーブン・ソダーバーグ
出演:マイケル・ダグラス
:ベネチオ・デル・トロ
:ドン・チードル
公開:2001年
上映時間:147分
この映画の中で、ベニチオ・デル・トロ演じる、メキシコの州警官「ハビエール・ロドリゲス」が、アメリカのDEA(麻薬取締局)へ情報提供をする見返りとして、「夜も遊べるように、公園に照明がほしい。明るければ安全だし野球だってできる。だれも運び屋にならない」と語るシーンがあります。
いきなり話が変わりますが、現在、日本のアニメや漫画、ゲームなどが世界で人気があります。
こういったアニメや漫画が、「銃を持って敵と戦いに行くより、漫画を見たり、ゲームがしたい」といった紛争をやめる動機につながっていくのではないかと想像してしまいました。(そんな簡単な話ではないと、わかっているつもりですが。)
映画「トラフィック」は、照明設備のついた公園で行われている少年野球を、ハビエール・ロドリゲスが、スタンドで観戦するシーンでエンディングを迎えます。
何も解決していない倦怠感を感じながら、それでも何か一歩進んだような気にさせてくれるエンディングです。